1978年9月、若いカップルはニュージーランド(NZ)の南島カンタベリー大平原をレンタカーで走っていた。ハネムーンでこの国を選んだのは、「緑の大地」というガイドブックのキャッチコピーと美しい写真に魅了されたからだ。まだ日本では馴染みの薄い南半球の島国だが、マウントクックやミルフォードサウンドは有名だった。旧知のジュリアンさんとの再会をさっさと済ませ、まるで海水浴にきた子どものように、一目散に車に飛び乗り、青い空と白い雲と緑の草原へ飛び出していった。
2007年9月、シニアカップルがオークランド空港に降り立った。待っていたのはマオリ人のコロさん。引退した武蔵丸を連想するような逞しい表情の持ち主だ。10時間半のロングフライトでも最新機材のお蔭で各座席でエンタテイメントが楽しめたが、よかったかどうか・・・。日本封切前の話題の洋画を3本見てしまったため、コロさんの運転するトヨタのランドクルーザーが揺り籠に感じられ、ついウトウト・・・。マオリの伝統的音楽が車中に流れ、いよいよ夢の中へと・・・。突然「イキサン・・・」とコロさんの顔に似合わぬ優しいささやきが聞えてきたので、「アイアムソーリー・・・」と居眠りを詫びたが、これを繰り返すことになったのは、コロさんが意外におしゃべりだったからだし、何より、サービス精神に溢れていたからだろう。あらためて「アイアムヴェリーソーリー・・・」。
カウリミュージアムはNZの開拓の歴史が凝縮された親切なシニアボランティアによって運営されている施設だが、前NZ航空日本支社長のロベルさんも館長として働いていた。この人も優しい紳士だ。ユートピアを求めてやってきた西洋人によるカウリ伐採の歴史は先住民マオリや自然との戦いの歴史でもあった。そして、さらに車を北上させると、ワイポウアの森に到着した。森の神タネマフタをはじめ樹齢1000年を越えるカウリの巨木達が静かに息づいていた。森林浴ウォーキングを楽しんだ後、宿泊先のホキアンガに着いた。ここはコロさん達が住む歴史のあるスピリチュアルなマオリの村で、美しく豊な海が広がっていた。ゆったりとした滞在を魅力的に味付けしたのは、イセエビやひらめなどのシーフードであり、演出したのは南十字星を散りばめた満天の夜空だった。
四半世紀を経て、訪ねたNZに、新たなユートピアを見る思いがする。自然と人間の共生の歴史は長く険しいとも言えるが、10万年の人類の歴史、さらに46億年の地球の歴史と比較するとなんと短い時間だろう。人間を無防備に受け入れた太古の森ワイポウアは、聖域としてキウイ(NZ人の愛称)達の誓いの場所になっている。そこには、青い空と白い雲、そして美しく豊かな自然と生きる幸せを知っている人たちがいる。
そして、誇りと希望を持っている人たちの住む場所に住みたい!と旅をしていつも思う。
ただし、隣りにいる「パートナー」の同意を得られるかが最大の課題だ。さあ!どうする?